ては争点となっていません)。 「本件着服行為は、公務の遂行中に公金を着 服したものであって、重大な非違行為である。 バスの運転手は、その職務の性質上運賃の適正 な取扱いが強く要請され、市交通局職員服務規 程は勤務中の私金の所持を禁止している。そう すると、本件着服行為は、市の同事業の運営の 適正を害するのみならず、同事業への信頼を大 きく損なうものということができる。本件喫煙 類似行為は、勤務状況が良好でないことを示す 事情として評価されてもやむを得ないものである。 本件非違行為に至った経緯に特段酌むべき事 情はなく、Aは発覚後の上司との面談の際にも、 当初は本件着服行為を否認しようとするなど、 その態度が誠実なものであったとはいえない。」 3 京都市バス事件の分析 (1)近時の公務員の非違行為に対する最高裁判決 の傾向 近年、地方公務員の非違行為に対し、高裁が、 懲戒免職処分は適法としつつ、退職手当不支処 分については裁量権の濫用として違法とした判 断を、最高裁が棄却する判決が続いています。 具体的には、①宮城県・県教委事件[最三小 判令和5年6月27日/公立高校教諭の飲酒運転に よる車両衝突事故の事案(以下「宮城県判決」 といいます)]や、②大津市事件[最一小判令和 6年6月27日/市職員の飲酒運転による物損事故 2件の事案(以下「大津市判決」といいます)]が あります。京都市バス判決もこれらの判決の延 長線上にあるものと考えられるでしょう。 (2)退職金の性格の捉え方 また、一般的に、退職金の性格として、勤続 報償的性格・給与後払的性格・生活保障的性格 があげられています。 この点、宮城県判決は、一般的枠組みとして 退職手当の勤続報償的性格、給与後払的性格、 生活保障的性格に言及しつつ、その具体的判断 ではこれらの性格への言及をせず、管理機関の 裁量を尊重する結論を下しました。 これに対し、大津市判決と京都市バス判決は、 退職手当の額や性格等に言及することなく、不 支給処分に裁量権の濫用・逸脱はないと判断し ております。 このように、近時の最高裁判例は、公務への 支障や信頼が重視され、労働者の利益(退職手 当の給与後払的性格等)が十分に考慮されない 判断枠組みを採用しているものと考えられます。 4 民間部門の場合は? これに対し、上記最高裁の判決の傾向は、公務 への支障や信頼が重視されていることに基づくも のであることから、民間部門の労働者にそのまま あてはまらないことに注意する必要があります。 そこで、民間部門においては、以下の2点を慎重 に検討する必要があります。 ① 非違行為(売上金の着服行為)が懲戒解雇事由 に該当するか 本件では問題となっていませんが、余りに少 額な場合を除き、売上金の着服行為は、会社に 対する重大な背信行為であり、懲戒解雇事由に 該当すると考えられます。但し、本件では着服 金額が2000円と少額であることから、懲戒歴の 有無、反省の有無、被害弁償の有無等も考慮し て、慎重に判断する必要があります。 ② 懲戒解雇事由に該当するとして、退職金全額 不支給処分が適法か また、当該着服行為が、懲戒解雇事由に該当 するとしても、退職金を全額不支給処分にでき るかは別の問題となります。会社としては、最 低限、退職金不支給規程を定める必要がありま す。また、退職後に着服の事実が発覚すること もよくありますので、(元)従業員の不正を理由 とする退職金返還規程を定めておくことをお勧 めします。 なお、上記退職金の性格(給与後払的性格、 生活保障的性格)に鑑みると、退職金を全額不 支給とすることは認められない恐れがあります ので、その点もご留意ください。 以上 9 兵庫経協2025年秋号
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