が不十分な場合に元の職務への復帰が難しいと判 断されるケースでは、他の職務への配置転換や退 職(または解雇)の措置が求められる可能性があ るが、これらの措置が必然か否か、また、障害が 残ったような場合に合理的配慮がなされるかどう かは、制度の運用上の大きな課題となっている。 復職時の留意点 休職発令時以上に復職に際してはトラブルにな りやすい。 復職の判断にあたっては、労働者が「従前の職 務」を「通常程度」遂行できる状態かどうかが評 価されるが、ここでいう「従前の職務」とは、必 ずしも休職直前に担っていた業務そのものではな く、本来労働契約に基づいて遂行すべき業務内容 全体を指す場合が多い。また、「通常程度」とは、 必ずしも健康時と同様のパフォーマンスを求める のではなく、復職初期には業務内容の軽減や短時 間勤務といった措置を講じるべきときもある。 配置転換に関しては、労働者の能力、経験、企 業内での配置実情などを勘案して、現実的に他業 務での遂行が可能かどうか判断される。もっとも、 労働契約において職務が限定されている場合、企 業側は労働者の個別同意なしに配置転換すること は困難となる。また、メンタルダウンを理由とす る休職からの復職の場合には、復職先が新たなス トレス要因となりかねず、まずは元の職場に戻す ことが望ましく、無理な環境変更は再燃・再発リ スクを高める可能性が指摘されている。リハビリ 出勤やお試し勤務の制度運用についても、これが 本来の労働契約に基づくものか、それとも新たな 労働契約や労働契約ではない別種の契約なのかが 問題となる。それによって、労働基準法、最低賃 金法、労働安全衛生法など労働関連法規の適用対 象となるかどうか、制度設計上の明確化が求めら れる。 ラインによるケアと職場環境整備の重要性 復職後の定着および職場環境の健全化を図るた めには、上司や管理職による継続的なケアが不可 欠である。具体的には、普段の業務遂行において、 遅刻・早退・欠勤の増加、さらには業務能率の低 下や思考力・判断力の著しい低下といった「いつ もと違う」兆候に気付くことが重要である。これ らの兆候は、労働者のメンタルヘルス状態の悪化 を示すサインであり、早期に適切な支援策を講じ ることで、深刻な問題へと発展する前に対策を行 うことが重要である。 部下からの相談への対応としては、まず積極的 な傾聴を実践することが重要である。つまり、相 手の感情や意図を捉え、共感的に耳を傾けること である。その上で、必要な情報を提供し、必要に 応じて事業内産業保健スタッフや事業場外資源に つなぐことが求められる。さらに、企業全体とし ては、仕事量の適切な調整、勤務形態の柔軟な対 応、業務の役割や責任の明確化、昇進・昇格の機 会均等、良好な人間関係の構築、さらには仕事の 意義を再確認させる仕組み作りなどの配慮が必要 である。 なお、本年6月4日に労働施策総合推進法等改正 案が参議院で可決・成立した。その中には、カス ハラ(カスタマーハラスメント=顧客等による嫌 がらせ)や就活セクハラ(求職者等に対するセク シュアルハラスメント)を防止するため、企業に 雇用管理上必要な措置を講じることを義務付ける 内容も含まれる。最新の労働関連法改正の動向も 踏まえた職場環境整備は、復職支援の効果を高 め、労働者一人ひとりが安心して働ける環境づく りに直結する。企業はこうした体制を整えること で、復職後の再発リスクを低減させるだけでな く、メンタルダウンする従業員の発生を未然に防 止し、持続可能な労働力の確保につなげることが 重要であろう。 5 兵庫経協 2025年夏号
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