「兵庫経協」2025夏号

弁護士 矢形 幸之助 (矢形法律事務所) みなし残業制度を会社が一方的に廃止または減額することができるのか 当社は直行直帰の外出が多い営業部 門で、みなし残業時間制を行っていま す。みなし残業時間は営業部門の平均 的な残業時間を基準として定めたものでしたが、 ここ数年残業削減を推進してきた結果、平均時間 外労働が減少してきました。これに合わせてみな し残業時間も少なくすることができるでしょうか。 1 みなし残業制度 みなし残業制度とは,実際の時間外 労働時間にかかわらず一定の金額を 「時間外手当見合い」として支給する賃金制度の 種類で,みなし残業制度,固定残業制度,定額残 業制度などと言われています。 このみなし残業制度の実施率は,2010年の8% 弱から10年ほどで25%程と大幅に増加しているよ うです。また,設定されている1か月あたりの時間 数は「30時間」と「20時間」の2つで過半数を超え る状況のようです。 2 みなし残業制度のメリット・デメリット等 実施率の向上は,みなし残業制度の導入によっ て社員毎の時間外労働の管理負担が一定程度減少 したり,実際の時間外労働に関わらず支給される 性質から,時間外労働を減らすほど社員にとって は得になって時間外労働の抑制に繋がる等々のメ リットがあるからでしょう。 しかし,反面,実際の時間外労働がみなし残業 制度で設定されている時間より大幅に短くなれば みなし残業代としてはコスト高になるなどのデメ リットもありますし,今般のコロナ禍以降の働き 方の変化によって時間外労働が減少し,みなし残 業制度を廃止したいと考える企業も増えてきてい るのではないかと推察されます。 そこで,みなし残業制度の廃止或いは減額を検 討してみましょう。 3 労働基準法第37条から考えてみると・・・ 労働基準法第37条が求めているのは,同法で定 める基準以上の割増賃金を支払えということに尽 きていますから,割増賃金の算出方法や支払方法 がどのようなものであっても,結果として労働基 準法で定める基準以上の割増賃金が支払われてい る限り構わないとの理屈が導き出されます(昭和24 年1月28日基収3947号,関西ソニー販売事件など)。 この理屈からすると,割増賃金の支払いについ ては,労働基準法37条その他関連規程に定められ た方法により算出された金額を下回らない限り, どのような方法で支払おうと,それは会社の自由 なんだから,一旦はみなし残業代として支払うこ とを合意したみなし残業手当を廃止して,以後は, 毎月,実労働時間に応じて労働基準法第37条等所 定の方法で算定される割引賃金を支払う扱いにす ることはできるというべきであって,みなし残業 制度を廃止しようが減額しようが,労働者の同意 等がなければできない賃金の減額には該当しない んじゃないかと言えそうな気がします。 インテリム事件の第1審(東京地裁令和3年11月 9日判決)も同様の判示をしています。 Q A Q&A 労働問題 14 兵庫経協2025年夏号

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