と言えます。また、施設内に留まる必要がある ということであれば場所的拘束性も認められま すので、労働からの解放が保障されているとは 言えず、労働時間に該当すると判断される可能 性が高いでしょう。 3 割増賃金算定の基礎単価 ⑴ 夜間時間帯が労働時間に該当する場合には、 時間外割増賃金や深夜割増賃金の支払が必要 になりますが、割増賃金算定の基礎単価(以下 「基礎単価」)は、どうように考えるべきでしょ うか。基本給等を踏まえた基礎単価を前提に算 定すると、労働密度が薄い夜間時間帯の労働に 対しても高額の割増賃金の支払が必要となり、 妥当性を欠く結果を招くようにも思います。こ の点、設問では夜勤手当6000円が支払われてい ますが、例えば、夜間時間帯(午後9時~翌午前 6時)の労働時間が8時間(1時間は休憩時間)で あることを前提に、基礎単価750円(6000円/8 時間)として算定することも許される余地はあ るのでしょうか。 ⑵ 割増賃金は、「通常の労働時間…の賃金」を基 準に算定されますが(労働基準法37条)、「通常 の労働」については具体的に定義されておらず、 解釈に委ねられています。勤務時間帯によって 労働密度が大きく異なる場合に、時間帯毎に異 なる賃金額(以下「時間帯別賃金」)を設定する ことは契約自由の原則から否定されないはずで あり、時間帯別賃金が就業規則等で適法に設定 され労働契約の内容になっている場合は、これ を「通常の労働時間…の賃金」として基礎単価 とすることも許されるはずです。この場合、夜間 時間帯に行われた労働の基礎単価は、夜間時間 帯の賃金額を基準に算定すべきことになります。 この点、設問と類似した事案について裁判例 がありますのでご紹介します。千葉地方裁判所 令和5年6月9日判決は、「基本給のほかに、夜勤 手当及び夜勤支援手当が支給されていたことか ら、夜勤時間帯については実労働が1時間以内 であったときは夜勤手当以外の賃金を支給しな いことが、就業規則および給与規程の定めによ り労働契約の内容になっていた」として、夜間 時間帯に行われた労働についての基礎単価は、 基本給等ではなく、夜勤手当の額に基づき算定 すべきと判示しました。これに対し、控訴審で ある東京高等裁判所令和6年7月4日判決は、「同 法人は夜間時間帯の労働時間該当性を争ってき た」と指摘し、「控訴人と被控訴人との間での労 働契約において、夜間時間帯が実作業に従事し ていない時間を含めて労働時間に該当すること を前提とした上で、その労働の対価として泊ま り勤務1回につき6000円のみを支払うこととし、 その他には賃金を支払わないことが合意されて いたと認めることはできない」として、夜間時 間帯に行われた労働の基礎単価についても基本 給等の額に基づき算定すべきと判示し、一審の 判断を覆しました。 4 時間帯別賃金の設定方法 上記高裁判決では、使用者が夜間時間帯の労働 時間該当性それ自体を争っていたため、これと矛 盾する時間帯別賃金の合意の成立は否定されまし たが、上記高裁判決も「夜間時間帯と日勤時間帯 の時間給に差を付けることは、一般的に許されな いものではない」と判示しており、就業規則等に より趣旨・内容が明確になるようなかたちで時間 帯別賃金を規定しておけば、有効に機能し得ると 考えられます。 夜間時間帯のみ時給制にするというのが分かり やすいように思いますが、夜勤手当等の定額手当 で対応する場合は、時間外・深夜の割増賃金との どのように区別して規定するかという問題も出て きます。 労働密度の薄い時間帯についての別賃金設定に ついては、上記の問題のほか、最低賃金法との関 係も注意が必要になりますので、これを導入する 場合には弁護士に相談うえ慎重に進める必要があ ります。 15 兵庫経協2025年春号
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