「兵庫経協」2025春号

弁護士 岡田 知之 (京町法律事務所) 不活動時間における賃金額 当法人は複数のグループホームを運 営しており、そこで働く生活支援員に ついて、1ヶ月単位の変形労働時間制 を適用のうえシフトを組んでいます。夜間も入所 者対応が必要となる場合がありますので、午後3時 ~午後9時まで勤務し、そのまま施設に宿泊後、続 けて翌午前6時~午前10時まで勤務するというシ フト(以下「夜勤シフト」)もあり、各施設1名が宿 泊しています。 午後9時から翌午前6時までの夜間時間帯は入所 者も就寝しているため、平均1~2回の対応が必要 になるという程度ですので、生活指導員は、施設 内に留まる必要があるものの、基本的には仮眠室 で自由に過ごしています。このような勤務実態か ら夜勤シフトにおける夜間時間帯は労働時間とは 見ていませんが、賃金規程の「夜勤シフト1回につ き6000円の夜勤手当を支払う」という規定に基づ き、これを支払っています。問題はありますか。 1 設問のように、夜間時間帯にも対 応が必要な場合があるものの、そのほ とんどが仮眠に充てられている場合 に、その労働密度の薄さに応じた金額水準の手当 のみが支払われているケースは珍しくありませ ん。このようなケースで従業員から夜間時間帯に ついて割増賃金請求を受けた場合、夜間時間帯の 労働時間該当性やこれが認められた場合の割増賃 金の算定方法が問題になります。後者の問題につ いては、定着した実務上の取扱いと言えるものが ない状況ですが、以下では、近時の裁判例を踏ま えつつ検討してみたいと思います。 2 労働時間該当性 ⑴ 労働基準法上の労働時間(以下、単に「労働 時間」)とは、労働者が使用者の指揮命令下に置 かれている時間をいい、これに該当するか否か は、使用者の指揮命令下に置かれていたものと 評価することができるか否かによって客観的に 定まります。このため、就業規則上、夜間時間 帯が労働時間として位置づけられていなかった としても、労働者が使用者の指揮命令下に置か れていると評価される場合には労働時間に該当 することになります。 仮眠時間の労働時間該当性については、いく つかの判例(最高裁判所平成14年2月28日判決・ 大星ビル管理事件等)が存在しますが、そこで は、労働からの解放が保障されて初めて使用者 の指揮命令下に置かれていないと評価され、労 働時間に当たらなくなるという基準が示されて おり、その判断要素として仮眠時間中の役務提 供の義務づけの有無や場所的拘束性の有無が挙 げられています。 ⑵ 設問によれば、夜間時間帯に入所者対応を要 する頻度は平均1~2回程度とはいえ、コンスタ ントに発生するようですし、各施設一人体制と いうことであれば、役務提供の義務づけがある Q A Q&A 労働問題 14 兵庫経協2025年春号

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